[映画]武士の一分

椿三十郎」のリメイクがクランクアップした森田芳光監督が、なぜ今時代劇を撮るのか、という質問に
「今の時代でこんな話をやると生臭くなる。時代劇は衣装にしても舞台設定にしても、ある種の夢がある」と答えました。
山田洋次監督は「この作品(表題作)は時代劇の体裁を取っているが、実はいつの時代でも変わらない普遍的なことを描いている」との発言をしていました。
2人のアプローチの違いはそのまま作品に反映されるのではないか、そんな期待もあります。


あらすじを簡単に
毒味役の下級武士・三村新之丞は、お役目で貝の毒に当たり、失明してしまう。
宮仕えができない体となり、30石ばかりの禄も召し上げられるのでは、という憶測が飛び交うが、藩主から禄はそのままに養生せよとの沙汰が下る。
しかし、喜びもつかの間、妻加世の隠し事が露見、新之丞は「武士の一分」を掛けた戦いを挑むことになる。


以下、ネタバレあり。


正直、木村拓哉はじめ、この映画のPRが連日マスコミを賑わしているため、だいたいのストーリーを知ってしまった上で見る羽目になりました。
話自体はこれまでに何度も目にする類の、よくあるストーリー。
面白さ半減でも仕方ない、くらいの気持ちで映画館に出かけました。


いや、
不覚にも、
泣いてしまいました。


戦いを前に、剣の師匠に稽古をつけ直してもらうシーンでのやりとり。
何のことはない、ひょっとしたら泣かせるところではないかもしれないシーンで。


木村拓哉はいつも木村拓哉という役を演じている、と非難されることがあるようです。
木村拓哉というのはどんな役なんだ、と考えたとき、現代において最もかっこいい男である、としたら、この映画は、主演が木村拓哉だったから面白いんだと、自信を持って答えられます。


そのキムタクが、東北なまりバリバリの庄内弁をしゃべり、小汚い無精ひげを生やし、月代がボウボウになっている。
なんとリアルで、なんとセクシーなことか。
標準語の物語なら、見るに堪えなかったかもしれません、それくらい設定がずばりでした。


個人的な見解ですが、ぼくにとって時代劇とは、日本人に共通して理解できる「制約」のことだと思います。
江戸時代だから文字通り命を賭したお役目が日常のものであり、江戸時代だから標準語であるはずの江戸弁が地方に存在せず、江戸時代だから不貞は死につながる重罪なのです。


この世界観にはまっているかどうかは、加世が薬を新之丞に口移しで飲ませるシーンが官能的に見えるかどうかで判断してください。
そうなるともう、着物の裾からちょっとだけ出ている素足ですらエロチックに見えてきます。


ああ、良質の時代劇とはこんな作品のことを言うんだな、というのが正直な感想です。


ただ、メーンキャストの4人以外は、カメオと言っていいくらいちょい役でした。
剣を指南するシーンが圧巻だっただけに、もっと緒方拳との絡みが見たかった。
同時にキムタクが剣を持つシーンが意外に少なかった、と、後から思えてきました。


金額で評価すると(標準1500円)


¥1800


です。


すごくほめましたが、基本「佳作」ですから。
過剰な期待は勘弁です。