[小説]皆さんには今から、殺し合いをしてもらいます

気がつけば、ことしも8月15日が近付いています。
昭和20年というと、ぼくが生まれたちょうど30年前ですから、ぼくには計算がしやすい年でもありますが、平成生まれの人はどうやって終戦何年と考えているんでしょうか?
それとも考えたこともないんでしょうかね。


百田尚樹さんの「永遠の0」を読了しました。
あらすじを簡単に


司法浪人の健太郎は、フリーライターの姉からバイトを依頼される。
終戦間近、特攻隊員として戦没した祖父のことを調べるというのだ。
実は祖母が戦後再婚し、長くその事実を知らされていなかったため、健太郎は本当の祖父がいたということを最近になって知ったばかり。
「娘(健太郎の母親)に会うまでは死ねない」と語っていた祖父が、なぜ特攻隊員に志願したのか、健太郎達は祖父とともに太平洋戦争を戦った戦友の証言を集めていく。



貫井徳郎が「慟哭」で鮎川賞を受賞した際、誰かがこの作品を
「結末は分かっている。
 私は羽がゆらゆらとそこに向かって落ちる様を眺めていた」
とか、その類の言葉で褒めたことがある、と解説か何かで読みました。
「永遠の0」でぼくは、まさに同じような感想を持ちました。
結末はプロローグにあります。
しかし、この小説は、絶対に読むべき作品です。


健太郎の本当の祖父・宮部久蔵は、志願兵として軍隊に入り、零戦乗りとして活躍した人物です。
「お国のため」に戦った当時、家族を思い、「死ねない」と公言する宮部は、特異な存在。
作者は戦争をなじる手段として、昭和10年代に現代を生きる人物を放り込んだということでしょうか。


戦時中、零戦が太平洋を席巻しながら、海軍上層部の無能さゆえ、あたら命を散らす若いパイロットたち。
死ぬのも地獄なら、生き残るのもまた地獄。
生き残った飛行機乗りたちの証言集という手法を使っているため、物語はミクロの視点から、戦争ではなく人間を描き出しています。


戦争はよくないことだ、という感覚は、ぼくら戦後育ちにお題目のように刷りこまれたものです。
戦争の悲劇がどこにあるのか、この小説は答えの1つを提示してくれていると思います。


ウエットになりすぎず、それでも証言の1つ1つに涙がこぼれます。
戦争当時、宮部は軍部内で特異な存在だったかも知れませんが、現代ならずとも当たり前の考えを持った1個人に過ぎません。
時代、あるいは環境がその言葉を許さなかっただけなのでしょう。


現代でも引用されるガダルカナル島、あるいはラバウルの悲劇的、また破滅的戦闘を知る貴重な資料でもあると思います。
文庫本で575ページの大作ですが、長さは全く感じません。
ぼくの子どもたちが中学に上がったら、ぜひ読ませてみたい作品です。



金額で評価するなら(標準¥500)



¥2920


です。
税込み¥920でしたので。


ぼくらは戦争を止めるために、あらゆる犠牲を払わなければならないと思います。