[小説]血涙 新楊家将

前作「楊家将」のあまりのできのよさに文庫化をがまんしきれず、図書館で予約までして借りてきました。



あらすじを簡単に
楊業の死から2年、宋最強を誇った楊家軍はすでになかった。
燕雲十六州回復を悲願とする宋の太宗は、楊家の遺子・六郎に楊家軍の再興を命じる。
一方遼では、宋の将校だった男が、かつての記憶をなくしたまま楊業の宿敵・耶律休哥に登用される。
天与の軍才を持つ男は石幻果と名乗り、太后の娘をめとることになる。
領土拡張を目指す両国の戦争は次第に激しさを増した。
互いに両国の最精鋭である1万の騎兵隊をぶつけ合う楊家軍、耶律休哥・石幻果軍は、戦争の行方だけでなく、国家の命運までも握っていた。



前作の感想文の最後にも書きましたが、立ち読みで100ページまで読んだときに感じた「微妙感」を大きく覆すことはできませんでした。
http://d.hatena.ne.jp/you-sak/20080411
といって、塚本青史のようなイリュージョンではないんです。
前作の強烈なインパクトを求めていると、少し物足りないということです。



楊業の7人の息子たちがいかに父親、つまり最強軍人に近づくかという成長物語だった前作のスタイルは今作も踏襲されていて、楊業の役割を敵方の耶律休哥が果たしています。
楊家の六郎、七郎側から見ると、ただ父親を敬っていればよいという単純な図式から、味方である宋には人材がおらず、自分の部下を殺す敵こそが自分たちを育ててくれるというジレンマが心理描写に幅を与えてくれます。
石幻果の遼軍参加もあって、特に耶律休哥軍へのシンパシーすら感じる物語です。



反面、前回の一家がまとまり敵にぶつかるという明快さが消えたことで、単純な暴力(戦争)描写に力強さを感じませんでした。
戦略そのものよりも騎馬隊の戦術面にページを割いており、前作で楊業が率いた軍隊が持つ、弾丸と弾丸がカチコン火花を散らすような暴力の圧倒的な吸引力が小さくなっています。




ネタバレですが、前作を読んでいればすぐに分かるので書いてしまうと、



楊業の遺子を宋と遼に分けたため、そこに「運命が持つ皮肉」を加えざるを得なかったんだと思いました。
これは完全にぼく個人の嗜好なんですが、「血涙」のみを読んでいたのならものすごく高く評価したのでしょうが、「楊家将」の続編として読んだときに首をひねります。
形而上の物語を重視するなら、楊家将の続編になどすべきではないのです。
またまた「双頭の鷲」のデュ・ゲクランからの引用ですが、今作の楊家軍は前作から明らかに「弱くなっている」のです。
そらそうですよね、作品中の軍人才能ヒエラルキーのトップが死んで、2番手が繰り上がり1位になっているわけですから。
逆に言えばだからこそ内面のウエイトが大きくなったとも考えられますが。



もう一つ、途中で楊業を間接的に殺した潘仁美、潘豹親子への復讐のくだりは、明らかに蛇足でした。




金額で評価すると
(ハードカバーでしたが、前作にならい標準価格を文庫判の  ¥600×2=¥1200  とします)



¥2000



です。



いろいろ言いましたが、モノは「間違いない」レベルです。
ただ、前作から切り替えて読み始めるべきでした。