[小説]「世界は密室でできている。」 舞城王太郎著

犯罪者社会は「虚構」と「現実」が追いかけっこ。
虚構に追いつきそうな現実世界ですが、中にはトンデモナイ才能を持つ人間が何人かいて、後続を一気に引き離してくれます。


今回文庫版を見つけて購入しました。
あらすじを簡単に
名探偵・番場潤二郎(ルンババ)14歳と友紀夫(僕)15歳は、福井に住むお隣さんの幼なじみ。
家から飛び降りたルンババの姉・涼子の死が2人のトラウマになっている。
中学の修学旅行で出会った都庁職員ツバキと高校生エノキの姉妹に振り回され、仕舞いは大事件に巻き込まれていく…。


こんなあらすじを書いて何ですが、これは「ミステリー」かも知れませんが、いわゆる「推理小説」ではありません。
それが証拠に、謎解きをする手がかりは本の中にあるとは思いますが(ぼくは謎解きをせずに推理小説を読むのでちゃんと分析してません)、謎を解かせてやろうという気持ちが作中のどこにもありません。
むしろ、カバーのあらすじ書きにあるように、荒唐無稽な登場人物たちの群像劇的「新青春エンタ」なのです。


舞城は「煙か土か食い物」で、キワモノと境界線ぎりぎりのミステリーを書いた「オモロイ作家」という印象があります。
年齢的にもぼくと同世代。
「ウマ・サーマンとかハル・ベリーとかミシェル・ファイファーとかニコール・キッドマンとか、そういう超美人の…」(本文より引用)の超美人例の4人中3人まで同意できるところなんか、感覚的にも近いのです。
そう思い込み始めたら、どっぷりつかってしまいます。


もちろん、「狙ってる」という印象も否定はしません。
ですが、剽軽な文体、なにより実現性はともあれ、生み出した完成度が高いトリックを、「新青春エンタ」を作るための「ネタ」として捨て石にできるキップのよさを評価します。


金額評価は(文庫本ですので500円を標準として)


¥800


です。


いろいろ鼻につくところは多いと思います。
でも本筋になくてもいい殺人事件を余分に作ってしまう「能弁家」。


おそるべき才能の無駄遣い